伊藤一彦氏をご存知の方、いらっしゃいますか? ご存知なら、あら、おかしいな、と思われたことでしょう。
だって、伊藤一彦さんは、カウンセラーじゃなくて、たしか、歌人だよね、そうだよね…
そうです。伊藤さんは、宮崎在住の歌人。南から中央歌壇へ、その大きな声で、ほがらかにものを言う九州を代表する歌人です。
でも、実はカウンセラーというのも本当。高校教師をしていらした頃、哲学科卒で社会科を受け持ちながら、カウンセラーも担当していらしたのです。その頃の事情は、歌集『海号の歌』に詳しいので、ぜひお読みくださいね。
その伊藤さんの新著が届きました。『歌が照らす』。帯文には、
自然の声、人の言葉に耳を傾けつづける著者の滋味溢れる最新エッセイ集。
とあります。
短歌に関わる人間なら一気に読み進みたい充実の内容。でも、不登校を考える時にもとてもありがたい言葉の数々が鏤められている、そんな一冊です。一部引用します。
声を聴く、言葉を聴く
(前略)学校に、行きたくても行けない子どもがいます。でもそれは、その子の個人的な問題にとどまるのではなく、社会の現実が、その子に集中的に現れているという視点をもちました。
子どもには教えられることが本当に多かったと思います。学校に行けなかった、行けるようになる。けれどもまた行けなくなることも多い。でもむしろ、その繰り返しの中にこそ大事なことがあるのです。( 2ページ)
歌人としても尊敬する方だけど、カウンセラーとしても、やはり。そんなカウンセラー伊藤さんの常連さんだったのがこの方。
そう、俳優の堺雅人さん(写真は、堺さんと伊藤さんの共著『ぼく、牧水!』の帯から、お借りしました)。堺さんは質問魔で、理解魔。だから、堺さんが質問してきたら、じっくり聞いて、自分で答え始めるのを待つことが大事だった、と伊藤さんはおっしゃっています(『歌が照らす』184ページ・「魔の持ち主 堺雅人」)。自分が答えない方がいいのだと。
カウンセラーの本領について考えさせられました。こんな風に寄り添ってくれるカウンセラーがいたら、きっと学校も変わりますよね。
『歌が照らす』、じっくり読ませていただきます。