特別な旅~息子とドイツ~

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例えば、スーツケースに荷物を(さもやりたくなさそうに)ぐちゃぐちゃに詰める息子に「ああ、もう!」と口を出し始めると

「そんな口調で言うなら、(ひきこもっていた頃を)思い出して(辛くなってやるぞ)…!」

と返される。


旅行の間中、私はことあるごとにこの言葉に向き合わなければならなかった。…この旅は私のふりかえりの場でもあった。



(一緒に行ったということを言うのがどうも抵抗があるようでした。それで、フェイスブックの旅行記では皆様には申し上げておりませんでした)

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息子が中学で引きこもっていたとき、なんとか外の世界に出てほしいと願った。

じっと元気が出るまで待てばいいというけれど、本音はその中でもできることはしていきたいと思っていた。そうせずにはいられなかった。


加えて、卒業後の身の振り方が定まってなかった彼の身分を支える何かが欲しかった。それでパスポートをとらないかと持ち掛けたのだが、彼は二つ返事で了解したのだった。「あなたを縛るものなどない。どこにだって行けるよ」というメッセージを息子は受け止めてくれたのだと思う。


中学を卒業後は、少しずつ外に出るようになっていった。外出をしては帰る道に迷いながらも、外の世界に息子は慣れていった。




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17歳になったこの冬のはじめに彼と話をしていて、よし、ドイツに行こう!と、みるみる話がまとまったのだ。引きこもっている間、夫の書棚にある池田理代子作『オルフェウスの窓』を繰り返し読みふけり、レーゲンスブルクやドナウ川にあこがれたらしい。そうか、そうだった、だから私もレーゲンスブルクという地名になじみがあるような気がしたのだ。



イザークとユリウスとクラウス()きゃー、懐かしい。まさにこの地の音楽学校という設定だったんだな。さらにラストのユリウスとヤーコプの対峙。アネロッテ様!息子はドナウ川のここに違いないという。うむうむ。ネットで探せばいろいろと探訪サイトが出てくる。なるほど~。




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また息子は諫山創作『進撃の巨人』を読み込んでいた。それで太古、巨大隕石が落ちた後の窪みにできた集落、ネルトリンゲンに思いをはせたようだ。

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        (画像、お借りしています)


今回訪れたのはどちらもドイツの南方バイエルン地方。ミュンヘンを拠点に移動がしやすかった(降りる駅を間違えたけれど💦)。


夫も私も日頃から、息子たちに日本ではない場所も知ってほしいねと話し合ってはいた。今回、このようにして快く送り出してくれた夫に、感謝するばかりだ。


そして、こんな旅がしたいのだとプランを述べる息子の意図を十分にくみ取ってくださった旅行社のサポートを得て、今回の旅は実現した。


行く先々でサービスを受け、それぞれに満足したのだけれど、無償の親切に触れることができたのは心にしみた。お世話になった方々にこの場を借りて感謝を表したいと思う。


そしてそして、私たちには携帯Wi-Fiという強い味方がいた。これなくしては、フリープランでの旅行は成り立たなかった。それでも間違えてばかりだったのだが。帰国して「調べ不足!」とは、夫の一言でありました。





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レーゲンスブルク大聖堂と十字軍の繋がりを知ってはしゃぎ、クリスマスマーケットでドイツの味に舌鼓を打ち、とうとうと流れるドナウ川と石橋を見てうちむせび、橋を渡りながら感嘆し、また、ネルトリンゲンへ向かう際、降りる駅を間違え無人駅のプラットホームに立ったときも(私が何か言おうとするのを制し)、静かに目をつぶって冬のドイツの空気、静寂の中に響く教会の鐘の音を心に刻んでいた。この日がクリスマスの朝というのが、気持ちをより厳かにしたかもしれない。



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旅のひとこまたりとも逃すまいと、彼は膨大な量の写真を撮った。そして、太陽が美しいのだと言った。冬の薄雲った中に時折差し込む光と、雲を透かしてその形を表す日食のような太陽が美しいのだと。



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私は影が美しいと思った。屋根のシルエット。ランプや縦格子の影。そしてそれらを映し出す壁もまた。

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オレ、ドイツ好きだわあと何度も繰り返す息子。繭ごもりの中で、彼は憧れの土地の地理や歴史を幾度も反芻していたのだろう。そうするうちに、初めての場所がすでに懐かしい拠り所にすらなっていたのかもしれない。

これは彼にとって、特別な旅だろうか?

魂の場所に向かうという意味では、むしろ当然の旅と言うべきなのかもしれない。





くにトラ  鈴木久仁子

今年のくにトラの記事はこれが最後です。

みなさま、よいお年をお迎えください🎍

来年もよろしくお願いいたします🐗


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ネルトリンゲンは豚に救われたという言い伝えがあるのだとか



HPもご覧ください🎍

http://sacfa.yubunsuzuki.com/



Commented by 通りすがり at 2018-12-30 09:13 x
外に出ること、とりわけ外国に出かけるのはいいと思っています。いまの日本が見えやすいでしょうし(その分、日本に戻ってから辛いかもしれませんが)、歩くことや日本語のない世界に身を置くことも大事だと思います。とにかく何かしないと、やっていけないわけですから、体も心も動く。くにトラさんのバイタリティに頭が下がります。
Commented by sacfa2018 at 2018-12-30 11:11
ありがとうございます。一人ではとてもできなかったと思います。息子が何か感じてくれたらと思いますが、たぶんそれを願うのも余計なことなんでしょうね。行って帰ってきた、それで全てかもしれません。
by sacfa2018 | 2018-12-30 07:00 | 家族 | Comments(2)

不登校問題当事者であった経験からその時のこと、またこれからのことを日々綴っていきたいと思います。


by sacfa2018