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前川喜平氏講演会レポート【その3】

前川喜平氏講演会レポート【その3】
憲法26条から教育機会確保法、夜間中学、インクルーシブ教育、性的マイノリティーへと話は続きます。会場もヒートアップ。

「不登校から見えてくる教育の未来~多様性を考える~」
 2018.12.8 10:00~11:45 福岡市都久志会館
 
憲法26条の「ひとしく」は教育基本法第3条にある教育上の差別の禁止と同じ意味です。
ここで憲法14条の条文と比較すると面白いんです。憲法14条では「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的、又は社会的関係において、差別されない。」教育基本法第3条では「すべて国民は、ひとしく、その能力に応ずる教育を受ける機会を与えられなければならないものであって、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によって、教育上差別されない。」となっています。教育上、「経済的地位」では差別されないという言葉が教育基本法には入っているわけです。
これは、どんな経済的に恵まれない境遇で生まれ育ったとしても、同じように教育の機会を与えられないといけないといっているんです。
ただ、実際には実現していなくて、高等教育に関しては明らかな格差があります。児童養護施設出身者の大学専門学校進学率は3割に達していません。児童養護施設は18歳までで、あとは自立してくださいということなので、自分で働きながら学費を工面していくわけで、これはなかなか大変なことです。こういうことからも給付型奨学金制度を十分にすべきですね。
教育基本法にはこのように憲法の理想は書いてあるんですが、現実はそれに追いついていないんです。
 
憲法26条第2項に義務教育についての規程があります。「すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。」これは国民に義務を課すという書き方になっているんです。子どもの保護者が子どもに普通教育をうけさせる義務。その教育のことを義務教育という。保護者が子どもに対して負っている義務で戦前のものとは違います。
憲法に書かないといけないのは国の義務ですからこれは憲法に書く必要はなく、法律に書けばよいと思います。本当に義務を負っているのは国だということから出発して、憲法26条は条文を書き直すべきです。あ、これは私の個人的憲法改正草案です。(会場笑)
全ての人は法律の定めるところにより、その個性に応じて、共に等しく、と。国は、全ての人に無償で普通教育を保障する義務を負う、とした方がいいです。
そもそも義務教育というより権利教育といっていいですね。全ての人は無償で普通教育を受ける権利があるんです。
 
● 義務教育機会確保法
このように書き直すと、国は義務を果たしていないことが見えてきます。
すべての人に普通教育を受ける権利を保障しているかというと、今の制度ではこぼれ落ちる人がたくさんいるわけで、この現実をつきつけているのが不登校の子どもたちであり、不登校だったまま卒業した人たちということです。
今の国のやり方では権利を実現していない。学校という画一された制度では権利を保障されていない人たちがたくさんいます。
この問題に正面から向き合ったのが一昨年12月の義務教育機会確保法です。本当は「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」なんですが長すぎるので「義務教育機会確保法」とか「教育機会確保法」と言っています。
これは画期的な法律です。学校中心主義から脱却するきっかけになり得る法律なんです。
義務教育に関しては学校でないとだめだという考えが根強いんですが、学校以外の学びがあるということをはっきりと打ち出したんです。この法律には、年齢、国籍にかかわらず普通教育を受ける機会を確保するとされています。国籍にかかわらずという点では憲法を超えています。この考えはこの法律で初めて出てきたものです。
 
この「教育機会確保法」は不登校の問題と正面から向き合っている法律です。
まず、学校が全ての子どもにとって居場所に、居心地のよい場所にならないといけない。つまり学校に問題があり、不登校の子どもに問題があるんじゃない、学校が変わらないといけないと言っているんです。これは非常に大事な視点で、学校の側に変革を求めているわけです。
学校という仕組みがそもそも画一的なもので、なじめない子どもも当然出てくるわけです。
 
黒柳徹子さんの『窓際のトットちゃん』という本があります。戦時中の小学校で、トットちゃんは先生の授業を聞かずに、窓の外のチンドン屋さんとお話をしていて、学校に来ないでと言われてしまうんです。就学免除ですね。迷惑だから来るなと。彼女はおそらくADHDと言われるタイプのお子さんだったと思います。
それで父母が目黒区自由が丘にあるトモエ学園というところを探してきました。
自由が丘というのは、大正自由教育という大正の一時期に花開いた教育による「自由が丘学園」という学校の名前から来ている地名です。創立者が早くに亡くなってしまったあと、小学校部分を引き継いだのがトモエ学園。校舎は電車の中で、子どもたちは、今日は何をしようかというところから始める。時間割はない、決まった席もない、自由席なんです。
この学校が戦時中も残っていたんですね。空襲で焼けてしまったんですが。あの戦争の最中にこんな自由な学校が存在したのは奇跡だと思います。
当時は国民学校令で、全ての小学校は国民学校になって厳格な就学義務が課せられました。国民学校以外の場所での義務教育は認めない。ですが、既存の私立小学校については例外規定があったわけです。
 
この厳格な就学義務が受け継がれてしまっているんです。
先ほどの憲法24条、教育基本法を思い出していただくとわかりますが、「普通教育」を受けるとあって、「義務教育」を学校で受けなければならないとはどこにも書いてありません。
しかし現行の学校教育法は学校以外の場所での義務教育を認めていないんです。国民学校令の学校以外の教育はまかりならんという流れを汲んでしまっている。
あ、まだ多様性の話をしてないですね。(タイムキーパーがあと5分を出している)
(会場笑)
 
これをなんとか打ち破ろうという第一歩が教育機会確保法です。
最初は学校でないところでの義務教育を正面から認めようという案だったんですが、これは非常に反対にあったんです。
教育機会確保法は超党派の議員連盟を母体にして作られたものです。議員連盟の中心にいた馳浩という人(私は馳さんのお手伝いをしただけで私が作ったんじゃありません)が最初に考えたのが、個別学習計画を保護者が作って、教育委員会が承認したら、学校以外での教育を認めるというものでした。が、これは超党派での反対にあったんですね。(会場笑)学校制度が崩れるのではないかということが心配されました。そんなことをしたらみんな学校から離れてしまうのではないかと。
学校以外で勉強してもいいなら、子どもたちはどんどん学校から逃げていくんじゃないかと。そういうことを言う人は、いかに学校が子どもたちにとって嫌な場所かということを認めているようなものですよね。そうならないように学校を変えないといけないのに。
結局、馳私案は通らなくて、その後を引き継いだ丹羽さんの私案がベースになっています。
全ての子どもがいったん学校に在籍する。しかし学校の外で学ぶことは認める。
学校にもいろんなタイプがあるので、柔軟な学校を作りましょう、というものです。
そして子どもが学校を休む必要性も正面から認めたんんです。
これは非常に画期的なことです。
「終了してください」のカンペが出てるので終了します、あと何分か後ですけど。(会場笑)このホールはこの後使う人がいるんですぐ出ないといけないんですよ。私はギリギリまで話すので終わったら皆さん急いで出てくださいね(会場笑)
 
●夜間中学について
15歳までの時期に普通教育を十分に受けられなかった人たちのために学びなおす機会を作らなければならない。そのために夜間中学を作っていくことも、この法律が打ち出しています。
文科省は夜間中学につめたい態度をとり続けていましたが、やっと3年前に形式卒業者(学校には行けていないが卒業証書だけはもらった人)も夜間中学に入れますよという通知を出しました。それまでは、卒業しているから入れないという門前払いをしていたわけですが、明らかな学習権の侵害でした。やっと是正したことになります。それ以後、形式卒業者の方々が、夜間中学に入ってこられるようになってきています。
ただし7割を超える生徒は外国人で実態として外国人のためのものになっているということはありますが、夜間中学は普通教育として各教科をまんべんなくやるというものです。その前提としての識字教育は必要です。最終的に中学卒業までの学力をつけるのが目標です。外国人に対する日本語教育は待ったなしです。夜間中学がその役割を事実上担っています。
それ以外にも、最低限の日本語学習の機会を保障することは国、自治体の課題です。
夜間中学は、文科省は全国に作ろうとしていますが、自治体がやる気になってくれていない。九州には1校もないですね、四国にもないです。四国にないのは獣医学部だけじゃないんですね。(会場笑)
お話しなければならないことがまだあるんでそれぞれ一言ずつ。
 
●インクルーシブ教育について
インクルーシブ教育というのは、障がいのあるなしにかかわらず、できる限り共に学ぶという教育です。
これは行政が不断の努力をすべき課題です。インクルーシブ教育の理念はつねにそこに近づくために努力する必要があります。常に広げていかないといけないですし、ずっと続けることが大事です。合理的配慮という言葉がありますが、ただシステムを作って終わり、ということにはなりません。
障がいのある子どもたちも高校に入れるようにすることも課題です。障がいに応じた学習方法のためのさまざまな技術ができていますので、どんどん取り入れていってほしいです。
 
●性的マイノリティについて
性的少数者の人たちについては、まず、学校や教師の理解を深めていく必要があります。やっと、文科省で教師用の手引き書なんかができたところです。当たり前のアイデンティティなんだということを、人権教育をしないといけないですね。人権教育こそが道徳教育の核として行われなければいけないと思います。
日本の制度はまだまだです。憲法改正するなら、平等に関してジェンダーや性的少数者のことを入れないといけないでしょう。最新の人権感覚ということを教育に取り入れないといけないと思います。
ということで、最後は多様性の話になりました。(会場笑)
本当はまだあと1時間は話したいんですが、もうこの会場を空にしないといけないのでこれで終わります。ありがとうございました。(会場大拍手)
 
○司会
前川喜平さんありがとうございました。
本日は前川喜平さん講演会「不登校から見えてくる教育の未来~多様性を考える~」にお越しいただきまして誠にありがとうございました。お話はまだまだ続きそうですが、続きはまたいつか、ということをお約束させていただきまして、本日は終了させていただきます。(会場大拍手)
 
〜終〜
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前川さん、学びの時間をありがとうございました。ぜひまた福岡に!

文責 しょこトラ 水元晶子




Commented at 2018-12-20 11:18 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
by sacfa2018 | 2018-12-15 00:07 | 講演会 | Comments(1)

不登校当事者に伴走するボランティア「咲くふぁ福岡」です。当事者の話す会「アガパンサスカフェ」もやってます。


by sacfa2018
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