似たもの同士【16】〜私の役割〜
2018年 07月 28日
何か用事があるならこれに書いてください、と部屋のドアに張り紙がしてあるのです。
用事、といったって何があるわけでもありません。
ごはんだよ、と声をかけるくらいでした。
私は食卓に彼の分も並べて、声をかけるけれど出てこなくて、しばらくそのままにしておいて、仕方なくキッチンに戻してラップをかけて、ということをしていました。
そうすると、頃合いを見計らうようにして彼が部屋から出てきて、食事を部屋に運んでいくのでした。
悲しいなあ、と私は思っていました。
一緒に食べたいなあ、と思っていました。
ある日、夜に彼が出て行ったと思ったら、100円ショップで小ぶりのトレーを買って戻ってきました。
自分の食事を部屋に運ぶためにわざわざ購入してきたのです。
我が家にトレーがなかったわけではなく、自分用の物がほしかったのでしょう。
これで一度に食事が運べる、何度も私の顔を見ずに済むぞ、と言わんばかり。
そこまでなんだな、彼が私を拒絶するのは…とますます悲しくなりました。
と同時に、まあそれでも私が作ったものを食べてくれるんだから上等じゃないか、とも思いました。
自分用のトレーを選んでくるなんて、おもしろいじゃないか。
あれを選ぶまでに、ヤツのことだ、熟考したに違いない。
100円ショップで長々と考え込む彼の姿が目に浮かびました。
お腹も空いているんだからいいじゃないか。
もともとよく食べる子なのに、食べなかったらおおごとじゃないか。
なんとかなる、食べてれば。
私はだんだんそういう気分になってきたのでした。
私の役割がまだある。
そんなふうに思えたら、少し悲しくなくなったのです。
しょこトラ Sho Miz
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