永田和宏著『知の体力』
2018年 07月 06日
歌人で、細胞生物学者の永田和宏氏の『知の体力』を読んだ。とても面白い、知の厚みを感じさせる一冊だった。
すとんと胸に落ちた箇所を引く。
・この場所だけしか知らない人間にとっては、ここだけが生きる場所。ここで否定されたらほかに逃げ込む場所はない。友人関係では、せいぜい数人の友達との仲間づきあいが、世界のすべてであるかのように勘違いしてしまうと、その中の人間関係、その仲間の評価と好き嫌いだけが〈絶対〉となってしまって、これまた逃げ場がない。子供たちの自殺の大きな原因がここにある。
・特に子供たちのいじめの問題を考えるとき、この「ここだけがすべてではない」というメッセージの重要性にまわりの大人たちは気づくべきだろう。
・問題には一つの答えがあるものだと思ってきた教育と、何一つ絶対的な答えというものがない実社会とのあいだに、バッファー(緩衝帯)が必要だと私は思っている。
・インプットされた一次情報にどのような係数をかけて、実際の場面で応用可能な情報に置き換えるか、それが知識の活用ということに他ならない。先に書いた「知の体力」とは、そのような現実の場で応用可能な、情報活用の基礎体力のことであった。
他にもたくさん紹介したい部分があるのだが、結局、永田氏が全編を通じて言いたいのは、今の学びの場の狭さ、風通しの悪さである。「すぐ横には別の世界があって、別の涼しい風が吹いている」ということを子どもたちに知らせたい…。研究者として、また歌人として、決して平坦ではない道を歩んできた永田氏だからこその実感に溢れた言葉である。
ぜひご一読下さい。
最後に、若き日の永田氏の短歌作品を一首。
スバルしずかに梢をわたりつつありと、はろばろと美し古典力学 『黄金分割』
さなトラ 藤野早苗